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  • 「気配に文学を纏う」ルームミスト

    「気配に文学を纏う」ルームミスト

    物語の主人公たちが手招きをする。 あの場所、あの時間。 ひとふりの香りが連れ立ってくれる。   あなたは、目を閉じる。   鼻先を通り抜ける甘い風。 頬をさす冷たい空気。 眩しい陽射し、柔らかな月あかり。   あなたは気配に、文学を纏う。   

  • 京極夏彦

    京極夏彦

    君を取り囲む凡ての世界が、まやかしのように消えてしまうその瞬間。 非日常はいつだって、日常の一歩後ろでぽっかりと闇の口を開け待ち構えている。 そこに確かな境界などない。   「不思議」を生むのは、君の脳そのものだ。 それを真にするのもまやかしにするのも、君の選び取る言葉次第だ。 妖怪に姿を与えたのは、他ならぬ君自身なのだ。 それでも君は言葉を必要とするだろう。 惑わされながら、深く信じながら。 そうして、君は言葉を纏う。 

  • 太宰治

    太宰治

    生きることは、あわいを漂い続けることだ。 哀しみを笑い、楽しみに傷つき、不幸を慈しむ。 寄る辺なくただ揺蕩いながら、この眼は水面の光を追っている。 眩しさに細めた目は、微笑んでいるように見えるだろう。 幸福だった不幸だったと、人は勝手を言う。 それでもなお、わたしはわたしだ。 この愉快な諦めを、生きていようと思った。 

  • 宮沢賢治

    宮沢賢治

    あまりにも小さな存在であるわたし(という現象) かなしみや、忙しない明滅に疲れ、目を瞑る 握りしめた手に、凍りつきそうな血の流れ 揺らぐ水の底に光る石を見つける 削りだした希の焔は強く輝いた 透明な光   そっと手に取り道を照らす灯籠にして、 暗い大地を進む 反転、天に続き、気付けば一面の光 ずっと見守られていた 私たちはみんなひとつだった... 

  • 森見登美彦

    森見登美彦

    今在る自分は、最善だろうか。 憧憬と劣等感がまとわりついて離れない。 暴風に煽られ、立ちすくむ。灯を探す。 騒々しい人波の隙間を縫って 声が残響する。 「惜しまずに、進め。」 世界を置き去りにしても、 君の隣を行きたいのだ。 持て余していた意志が、 時は来たとばかりに身体に満ちていく。 今からでも遅くない。 地面を蹴った足から、夜が走り出す。... 

  • 江國香織

    江國香織

    孤独がおしよせるのは、たとえば 夜のホームに降りたったとき。 あなたからの電話を待っているとき。 シーツの中でうずくまっているとき。   移ろい変わっていくのはさみしくてたまらないのに、 いつか終わるということが、 とりとめもない今を、曖昧に肯定してくれる。 うす暗い浴室で、 わたしだけの孤独が指先にゆらめくのを じっと見つめて、あしたを待っている。  

  • 江戸川乱歩

    江戸川乱歩

    私の想いはあなたに捧げられている それがあなたをも滅ぼすとしても お望みとあらばご覧に入れましょう、脈打つ私の心臓を   万華鏡の中で欲望は極彩色に変幻する 反転し、歪み、撓み、膨らみ、細り、 四散する薄桃色の体温 千変万化する白昼の夢 地獄の蝶が 炎のふちを跳ねるように踊る あなたの微笑だけが 月のようにぽっかり浮かんで...